基礎パッキン工法のメリット・デメリット|気密パッキンと通気パッキンの違いとは?

建物を建てる際に欠かせない工程はいくつもありますが、その中でも「基礎工事」はとても重要な工程の一つです。その名の通り、建物の基礎部分となるため、建物の強度や耐久性に大きく関係してきます。
これまで日本で建てられる木造住宅の多くは布基礎を採用されてきましたが、最近では耐震性や安定性に優れたベタ基礎が多く採用され始め、それに伴って基礎パッキン工法が普及しています。(ベタ基礎と布基礎の違いについては別記事で詳しく解説しています。)

マイホームの購入において、基礎を気に掛ける人はあまり多くないかもしれませんが、家づくりにおいて基礎はとても重要な部分です。この記事では、基礎パッキン工法の特徴をはじめ、基礎パッキンの種類や選び方について解説します。
基礎パッキン工法とは?

昭和初期ごろから平成初期にかけて、日本で建てられる木造住宅では布基礎が多く採用されていました。当時の布基礎では、基礎に直接土台を設置し、基礎内の換気は大きな換気口を設けることで行っていましたが、地震等の振動で換気口から基礎に亀裂が入って、建物が倒壊したり傾く等の問題が頻発していました。
そのような問題を解決するため、耐震性と安定性に優れたベタ基礎が多く採用されると同時に、基礎パッキン工法が普及し、現在では布基礎でも基礎パッキン工法が用いられています。
基礎パッキン工法の特徴
基礎パッキン工法とは、基礎と土台の間に基礎パッキンを設ける工法のことです。基礎パッキンを配置することによって生じた隙間から換気を促します。基礎部分に大きな開口を設けなくて済むため、基礎の耐久性を損なわないのが大きな特徴です。

(引用:フクビ化学工業パンフレットより抜粋)
また、土台が基礎のコンクリートと接すると木材が腐りやすくなり、シロアリ等の害虫被害に合う可能性を高めてしまいますが、基礎パッキン工法では土台がコンクリートと接しないため、木材の腐食を防止することができます。

(引用:フクビ化学工業パンフレットより抜粋)
基礎パッキンの多くはポリオレフィン樹脂と炭酸カルシウムの複合素材で作られています。樹脂のしなやかさと石の頑丈さを併せ持つとされており、100年以上使い続けることが出来るとされています。
また、最近では耐震性や制震性に優れたゴム製の基礎パッキンも普及しています。弾力性の高い天然ゴムと、耐摩耗性・対老化性に優れたSBRを使ったゴム素材が小さな振動や衝撃を吸収し、建物の耐久性を保ちます。
基礎パッキン工法のメリット
強度・耐久性に優れている
従来の基礎では、基礎内の換気のために基礎の鉄筋コンクリート部分をくり抜いて、床下換気口を設けていましたが、基礎パッキン工法では、基礎パッキンから基礎内の換気を行います。
基礎本体の鉄筋コンクリート部分に大きな開口を設けなくて済むため、基礎の強度と耐久性を保つことができます。従来の基礎では地震等の振動で床下換気口の角部分から亀裂が入り、建物の倒壊や傾きの原因となっていましたが、基礎パッキン工法ではそのようなリスクを軽減することが可能です。
通気性・換気性に優れている
基礎内に湿気が溜まると土台や柱の木材を腐食させてしまうため、いかに効率良く換気するかが重要です。従来の基礎では、数か所のみに配置された床下換気口によって換気されていましたが、基礎パッキン工法では建物全周に設けられた基礎パッキンから換気するため、効率よく換気をすることができます。
また、大きな床下換気口が設けられている従来の基礎では、雨水が浸入しやすく基礎内に湿気がある状態になりやすいですが、基礎パッキン工法では雨水が侵入しにくいため乾燥した状態を保ちやすくなるというメリットがあります。
基礎パッキン工法のデメリット
建築コストが高くなる
基礎パッキン工法では、建物全周に基礎パッキンを配置するため多くの材料が必要となります。また、基礎パッキンの施工に人件費が必要となり、従来の基礎工事と比べて建築コストが高くなる傾向にあります。
基礎パッキンにはいくつかの種類があり、どの基礎パッキンを選ぶかによって建築コストは変わってきます。自分が基礎に求める性能とコストを見比べて、自分に合った基礎パッキンを選ぶことが重要です。
施工ミスの可能性がある
玄関や浴室など、場所によっては基礎の通気を確保してはいけない場合があります。そのような場所には気密性の高い気密パッキンを配置しなければいけませんが、職人の経験が不足していると全ての箇所に同じ基礎パッキンを配置してしまう等の施工ミスが発生する可能性があります。
また、基礎パッキンはメーカーによって向きや配置の間隔が定められています。ルール通りに施行しないと、基礎パッキンの性能を十分に発揮できないだけでなく、基礎にかかる荷重が不安定となり、建物の損傷リスクが上がるので注意が必要です。
基礎パッキンに求められる性能

基礎には、建物全体の荷重を支える強度や耐久性だけでなく、湿気を防ぐことで土台や柱といった木材の腐食を防ぎ、シロアリ等の害虫の侵入を抑制する役割があります。
基礎の役割を果たすために、基礎パッキンに対していくつかの性能が求められます。ここからは、基礎パッキンに求められる性能ついて解説します。
【緩衝性】建物の荷重を吸収
基礎パッキンは基礎と土台に間に設置するため、建物の荷重を吸収する役割があります。基礎パッキンの材質が固すぎると基礎パッキンが土台にのめり込んだり、建物の荷重によって基礎が損傷する可能性が高まります。
基礎や土台は建物の主要構造部となるため、一部の損傷によって建物全体のバランスを失い、家の傾きや耐震性の悪化に繋がります。そのため地域や構造に合わせて、ゴム製や樹脂製の基礎パッキンを選ぶ必要があります。
【換気性】基礎内部の換気
基礎内部に湿気や水分が溜まると、木材の腐食やカビの発生原因となります。基礎内部を常に乾燥した状態を保つために、基礎パッキンには高い換気性が求められます。
日本で建てられる戸建て住宅の大半が木造ですが、日本の夏は高温多湿のため木造には厳しい環境だと言えます。木造住宅の品質を保つために、基礎内部の換気性は欠かせない要素です。
【断熱性・気密性】熱と空気を遮断
玄関や浴室部分の基礎の換気性が良いと、冬の冷たい空気が建物内部に入ってきてしまいます。快適な住環境をつくるためには、部分的に外部からの熱や空気を遮断することも必要となります。
また、最近では全館空調システムを採用する住宅も増えています。全館空調は、床下に冷気や熱気を通すことで住宅全体の空調を行うため、床下の換気性が良いとせっかくの冷気や熱気が外に出ていってしまいます。基礎パッキンを使用する箇所や建物構造に応じて、断熱性と気密性が求められます。
【耐久性】各性能の維持
どれほど基礎パッキンの性能が高くても、すぐに劣化してしまっては元も子もありません。基礎パッキンの上には土台や柱が設けられるため、交換作業は非常に困難となります。
基礎パッキンは基本的にメンテナンスフリーとなるため、交換しないことを前提に設計されています。そのため、長期間使用しても劣化しない程の高い耐久性が必要です。
基礎パッキンの種類と特徴

基礎パッキンには、正方形や長方形といった形状の違いのほかに、通気パッキンや気密パッキン、断熱気密パッキンや免震パッキンなどの種類があり、それぞれに特徴があります。
基礎パッキンを施工する箇所や自分の要望に応じて、基礎パッキンの種類を使い分ける必要があります。ここからは、基礎パッキンの種類と特徴について解説します。
キソパッキン(通気パッキン)

引用:城東テクノ(JOTO)
基礎パッキン工法のパイオニア「JOTO」が開発した基礎パッキンです。最もベーシックなモデルで、通気パッキンとも呼ばれています。
基礎と土台を絶縁することで、湿気を効率良く排出して木材の腐食を防ぎます。Joto複合材(ポリオレフィン樹脂+炭酸カルシウム)で作られており、経年劣化や荷重に対して優れた耐久性を持っています。
メーカー指定の間隔で配置していき、基礎パッキンが置かれていない隙間から換気を行う仕組みになっています。
キソパッキンロング

引用:城東テクノ(JOTO)
全周敷き込みの簡単施工を可能にしたのが、キソパッキンのロングタイプです。基礎パッキン本体に防鼠機能を持ったスリットを設けることで、防鼠材の取り付けをしなくてもネズミ等による害獣被害を軽減できます。
基礎パッキン本体に換気スリットがあるため、基礎の上の全周に基礎パッキンを配置することができ、建物の荷重を基礎全周で支えることができます。
キソパッキンロングは一つひとつの部材が大きいですが、自由にカットして長さ調整ができるため施工も簡単です。
気密パッキンロング

引用:城東テクノ(JOTO)
気密パッキンロングは、気密が必要な箇所に配置する基礎パッキンです。玄関まわりは床下空間と室内空間が繋がりやすく、冷たい空気やカビが浸入する可能性があります。また、浴室の床下に冷たい空気が入ることで、浴槽の水温が下がり、追い炊きや保温に多くの電気代を費やすことになります。
気密パッキンロングを、浴室や玄関まわり等の気密性が必要な場所の基礎天端に敷き込むだけで、床下からの気流を遮断することが可能です。
本体に設けられた1mmの深さの溝にはめ込まれた気密材は、圧縮されても溝に納まり続けるため、建物の荷重を分散させることで経年劣化を抑え、長期間高い気密性を保つことができます。
断熱気密パッキンロング

引用:城東テクノ(JOTO)
気密パッキンロングに断熱性を加えたのが、この断熱気密パッキンロングです。浴室や玄関まわりに配置することで外気温の影響を受けにくくなり、快適で省エネな家づくりが可能となります。
最近では、全館空調の普及に伴い「基礎断熱工法」で建てられる住宅が増えており、そのような住宅にも断熱気密パッキンロングが採用されています。
外気の影響を受けやすい部分の断熱性と気密性を高め、基礎内の結露を防ぐなどの効果がありますが、床下換気が必要なところには使用できないので注意が必要です。
免震パッキン

引用:日本制震システム
免震パッキンは合成ゴムで作られた基礎パッキンです。強度に優れた建物でも、従来の樹脂製基礎パッキンでは長期間にわたる小さな振動や衝撃の繰り返しによって基礎パッキンが土台にのめり込む場合があります。基礎パッキンがのめり込むことによって建物の荷重バランスが乱れ、建物の強度や耐久性に悪影響を及ぼす可能性があります。
ゴム製の免震パッキンでは、基礎パッキンが土台にのめり込むリスクを軽減するとともに、建物に伝わる振動や衝撃を吸収することで建物の強度の保ちます。
ゴムは樹脂と比べて弾力性があるため、基礎コンクリートと土台に強く密着するので、基礎パッキンのズレ防止にも効果的です。
基礎パッキンの選び方

基礎パッキンには多くの種類が存在しているため、基礎パッキンの選び方に悩んでいる人も多いのではないでしょうか?基礎パッキンは使用する場所や建物の構造によって使い分ける必要があります。
ここからは、基礎パッキンの使用シーンに応じた基礎パッキンの選び方について解説します。
安定性を重視するなら「キソパッキンロング」
ベーシックタイプのキソパッキンでは、間隔を空けてキソパッキンを配置しますが、キソパッキンロングでは建物の全周に配置するため、住宅の安定性を高めることが可能です。
キソパッキンロング自体に防鼠機能を持った換気スリットが入っているので、害獣対策を同時に行なえます。また、配置間隔を間違う心配もないため、施工ミスの発生リスクを軽減できます。
キソパッキンロングは一つひとつの部材が高額なうえに、使用する個数も多くなってしまうため建築コストが高くなる傾向にありますが、安定性を重視するならキソパッキンロングがおすすめです。
玄関や浴室まわりには「気密パッキンロング」
玄関や廊下は、各部屋よりも下がった位置にあるため、床下と室内空間が直接繋がりやすい場所です。床下からの空気やカビの侵入を防ぐために、玄関には気密性の高い基礎パッキンを使う必要があります。
また、浴槽のお湯の温度を保ったり、浴室を快適な気温に保つためには、浴室まわりの床下に冷たい空気を入れないようにする工夫が必要となり、気密性の高い基礎パッキンが用いられます。
玄関や浴室まわりのように、床下からの空気を遮断したり、床下に空気が入らないようにする必要がある場所には、気密パッキンロングがおすすめです。
全館空調の家を建てるなら「断熱気密パッキン」
これまではフローリングの下に断熱材を敷き込んで断熱する「床断熱」が主流でしたが、最近では全館空調システムや床下エアコンの普及によって、基礎で断熱する「基礎断熱」の住宅が多くなってきました。
基礎断熱では、床下も建物内部とみなされるため、外からの空気や熱を遮断しなければなりません。建物全周を断熱気密パッキンで覆うため、床下の換気は全館空調システムや床下エアコンによって行います。
全館空調システムや床下エアコンは、床下からエアコンの風を各居室に送り込むため、床下の断熱性と気密性が低いとエアコンの風が外部に抜け出してしまいます。全館空調システムや床下エアコンを導入する場合は、断熱気密パッキンを採用することになります。
建物の揺れを抑えるなら「免震パッキン」
日本では年間2,000回程の地震が発生しており、住宅の建築を考える上で振動対策はとても重要です。車通りが多い道路や線路沿いに住宅を建てる場合も、いかに建物の揺れを抑えるかを考える必要があります。
免震パッキンは合成ゴムで作られているため、地震等の振動を吸収し、建物の揺れを抑えることが可能です。また、基礎パッキンが土台にのめり込む心配がないため、建物の荷重バランスの乱れが起きるリスクを軽減できます。
まとめ
この記事では、基礎パッキン工法の特徴やメリット・デメリットをはじめ、基礎パッキンの種類や選び方について解説しました。基礎パッキン工法は、最近建てられている木造住宅の大半に採用されているためしっかりと理解しておきましょう。
基礎パッキンは、基礎コンクリートと土台の間に設置されている部材です。基礎パッキンを設置することで、コンクリート部分に大きな開口を設ける必要がなくなるため、基礎の強度を高めるとともに、建物全周から効率良く換気を行うことができます。
基礎パッキンには、建物の荷重を吸収し、基礎内部の換気を行うと同時に、施工場所によっては、外部からの通気や熱伝導を遮断する役割が求められます。それら役割に応じて、様々な種類の基礎パッキンが用意されているため、自分の要望や施工場所に応じて基礎パッキンを選ぶ必要があります。